そろそろあのマウスパッドについて書かなければならない頃合いだと思う。
 それは、私の九月の思い出の中で最も大きな割合を占めた経験であった。今日は、悔恨の意味を込めて、マウスパッドを巡る一大騒動――私の迂闊さが招いた騒動――について書いていこうと思うのである。
 その騒動の発端は、2009/6/21にまで遡る。私は、以下のゲームメーカー「デジタルキュート」のサイトを定期巡回していたところであった。

 デジタルキュートのゲーム「むすめーかー」に登場する女装少年「ゆず」が人気投票で一位をとったことから、このメーカーでは以前より一位を記念して、ゆずのグッズを製作する動きがあったのである。そのグッズ案の中に、そのマウスパッドはあった。抱き枕やドラマCDなどに並んで、「それ」はあった。
 ゆずのおちんちんマウスパッド。
 私は、このマウスパッドがもし商品化されたら、間違いなく買うつもりで、早く商品化されないかと、上記のサイトを定期巡回していたわけだ。
 世には「おっぱいマウスパッド」なる商品が多く出回っている。描かれたキャラクターの胸部、いや、乳房の部分が盛り上がった形状のマウスパッドである。長時間の作業に優しいと謳う、手首置き付きのマウスパッドを想像して貰えれば、マウスパッドの一部が盛り上がっているというのは特段不思議ではないことが分かるだろう。しかし、今回のおちんちんマウスパッドは、おっぱいマウスパッドとは似て非なる存在である。盛り上がっているのは、膨らんでいるのは、乳房ではない。ゆずの股間部分なのである。幼いながらも自己主張を忘れない可愛らしいおちんちんが、もっこりと盛り上がっているのである。刺激を与えれば屹立するおちんちんを備え、所謂「ちんぐり返し」状態で、恥じらうゆずの姿が、そこにはあった。私は迷うことなくこの企画を応援した。前代未聞のおちんちんマウスパッド計画に賛同した。
 そして、私が受注開始の知らせを見つけたのが、6/21だったのである。このときサイトには、300注文が入り次第製作に入ると書いてあった。私はすかさずその300注文の一つとなるべく、注文ボタンをクリックし、注文フォームに届け先の住所や氏名などを懇切丁寧に記入していった。しかし、ここで私は迂闊にも大きなミスを犯していたのである。このときはそれがミスだと気づく余地もなかった。このミスについては後述することにしよう。
 私は注文した後、満ち足りた気分と共に、やがて届くであろうおちんちんマウスパッドに思いを馳せた。自分だけに股を開くゆずが、妄想の中でどんどんと大きくなっていった。待ちきれない思い。私は至上の幸福を感じていたことだろう。しかし、その幸福も、流れ流れる現実の中では持続しないものだ。毎日毎日やってくる大学の講義やサークル活動などによって、徐々に、私のゆずに対する支配感に似たどす黒い欲望は洗い流されていった。七月半ばから本格的に大学の試験が始まったことも災いした。私にとっての最初の大学の試験。大きく失敗するわけにはいかなかったし、失敗したくもなかった。そんな真剣な思いは、私の狂乱じみた愛情を薄れさせていった。私はそのうち、注文したこと自体を忘れた。
 試験が終わり、八月のコミケ初参戦を乗り越え、複数の課題レポートに追われた私は、少年のみずみずしい肢体や痴態に思いを巡らせることを継続しながらも、重要なおちんちんマウスパッドについてはすっかり頭の中から削除してしまっていた。九月に入っても、サークルの合宿などで忙しく仙台と東京を往復し、注文したという事実に気づくことが出来るはずもなかった。そんな私を、自業自得の念にたたき落とす出来事は突然訪れた。9/8。運命の日であった。いつものようにメールボックスを確認していた私は、一通のメールを見つける。それは、他でもないデジタルキュートからのものであった。おちんちんマウスパッド、ついに発送。そのような内容が目に飛び込んだ。私はデジタルキュートの公式通販でおちんちんマウスパッドを注文していたのだった。デジタルキュートから待ちに待ったマウスパッド完成の知らせが届いたわけである。私は小躍りした。嬉しくて嬉しくて仕様がなかった。早く届いてくれ。早くそのつぼみを愛でさせてくれ。そう思いながら一日千秋の念でゆずの到着を待った。やがて佐川急便から電話が来た。ここで私は重大なミスを自分が犯していたことに気づく。そう、佐川急便「世田谷支部」からの電話だったのである。
 私は独居先の住所を届け先に設定していた。その上、私は支払いを現金代引きに設定していた。配送準備が整ったのは、東京の私の生活の場に対してであって、9/8現在滞在している実家に対してではなかったのだ。これは大変なことになった。このままでは、おちんちんマウスパッドを入手することが出来ない。私は焦った。この商品は完全受注限定生産であり、この機会を逃すと、悪質なオークションを利用せざるを得なくなってしまう。私はいつまで佐川急便の方で荷物を預かることが出来るかを問い合わせた。返ってきた答えは絶望的なものであった。9/23。そして、現金代引きのため、配送先を実家に変更することも不可能である。私はその場に崩れ落ちた。ゆずのおちんちんが遠くに・・・。私は心底軽率な自分を呪った。
 9/23を過ぎるとメーカーに自動的に返送されてしまうという連絡を受け、私はサークルの先輩方に相談を持ちかけた。上述の状況を説明し、何か良い考えはないかと相談を持ちかけた。先輩方は実に親身に私の相談に乗ってくれた。合い鍵を東京にいる人間に送付し、自分の代わりに受け取って貰う。指定期日に東京に日帰りか一泊二日で帰る。そのような解決手段が提案された。しかし、私の住むアパルトマンは特殊な錠前を利用しており、合い鍵を容易に作ることが出来ないタイプのアパルトマンであった。また、往復二万円をかけて東京にとんぼ返りするのも金の無駄であることは明らかだった。5200円のおちんちんマウスパッドのためには、あまりにも高い対価であった。勿論、そんな急なSW上京計画に親が賛同してくれるはずもなかったから、私はメーカー側と直接交渉することを思いついた。デジタルキュートはまだ「むすめーかー」しか出していない駆け出しのメーカーである。メーカーにとって、マウスパッドの売れ残りは避けるべき事態であろう。従ってデジタルキュートは大手メーカーのような誠意のない対応はしないだろう。私は卑怯にもそう考えた。手始めに私はデジタルキュートのユーザーサポートに以下のようなメールを送信した。


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6/21に、「ゆずのおちんちんマウスパッド」を注文しました、××と申します。受注番号は××です。
現在私は帰省で仙台に戻ってきているのですが、マウスパッドの届け先を東京の独居先の方へ指定してしまったようで、先日佐川急便の方から次のような連絡がありました。
それは、

・9/8発送なので、二週間しか営業所の方で保管できない
・9/23を過ぎるとデジタルキュート様の方へ返送になる

というものでした。私は諸事情で九月末まで上京することはできず、このままでは限定生産のマウスパッドが手に入らなくなってしまいます。
佐川急便の話では、デジタルキュート様の方で再発送が可能であれば、それに合わせて私の上京日に届けることが可能ということでした。
また、マウスパッドの料金支払い方法を代引きにしてしまったため、実家に転送することもできず、知り合いの代理受け取りも困難ということでした。
無理を承知で申し上げますが、マウスパッドの再発送は可能でございますか?

東京の独居先の住所は、
××
になります。

お返事をお待ちしております。(一部×でマスキングを施した)
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 しかし、なかなか返信は来なかった。そこで私は、通販業務を請け負っている株式会社ラッセルの方へ問い合わせることにした。文面は上と同じ。配送準備完了のお知らせメールを添付して送信した。すると、返事は思ったよりも早くやってきた。9/16。上々の滑り出しだと思い、メールを開くと、それは再送を快諾する旨のメッセージであった。私は見事にメーカー側との交渉により、再送を勝ち取ることが出来たわけであった。胸のつかえが取れた心地がした。その後も数回のやりとりを経て、9/30の夜におちんちんマウスパッドは私の独居先に届くことになった。私は9/30に東京入りし、ゆずと対面する。たった一人段ボールの中に閉じこめられて、マスターを心待ちにしているゆずに、私は精一杯の愛情を注いでやらねばならない。私の不手際から対面日を二週間近く延ばしてしまったお詫びを、ゆずにしなければならない。私は東京でゆずと二人きりになった時に、自分の持てる全ての精力をゆずに注ぎ込もう。扇情的なポーズも、見てくれる相手がいなければ意味をなさない。そして、その見てくれる相手はここ仙台にいる。もう少しの辛抱だ。私がゆずに会えない悲しみ、そしてゆずのおちんちんを愛玩・崇拝することができない苦しみなど、大したことではない。暗闇の中で解放を待ち続けるゆずの健気さに比べたら、大したことであるはずがない。私のおちんちんマウスパッドへの情熱はそのまま、ゆずという思念体への求愛へと転写されていく。私はこれからもこの一連の騒動を自分への戒めとして背負い続けなければならない。それが、私がゆずに出来る、せめてもの罪滅ぼしだ。おこがましいという意見もあろう。しかし、私には罪滅ぼしという表現しか出来ない。今の私には、出来ない。

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