「矛盾論理(サイコロジカル):第一回」(2006.8.2)

『サイコロジカル(上)』読み終わりました。今作は、前二作に比べ、素直にエンターテインメントとして楽しめる部分が多かったように感じます。今までにないほどの圧倒的に力の入った文章に、一瞬たりとも肩の力が抜けませんでした(こればっかりw
以下、感想です。

いーちゃんは、玖渚友(くなぎさ・とも)、保護者の鈴無音々(すずなし・ねおん)と共に、玖渚がサイバーテロ集団のトップだった時期の仲間、『害悪細菌』兎吊木垓輔(うつりぎ・がいすけ)に会いに行きます。彼は、『堕落三昧』斜道卿壱郎(しゃどう・きょういちろう)博士の研究所の奥に幽閉されているのでした。兎吊木を『救出』するという名目で研究所に入り、卿壱郎博士と対面する三人。『かつての天才』卿壱郎博士と、『現在進行形の天才』玖渚の因縁の再開、言い争いを経て、遂にいーちゃんらは兎吊木本人と対面することになります。対面後、兎吊木はいーちゃんと二人きりで語り合いたいと言い、皆もその意向に添います。兎吊木といーちゃんは、一対一で対峙し、質疑応答を互いに繰り返します。そこで、いーちゃんは気が付きます。彼には、自らの戯言が通用しないということに・・・。
いきなり兎吊木のセリフ『きみは玖渚友のことが本当は嫌いなんじゃないのかな?』で始まる冒頭部は、ひたすら重く、暗く、難解でした。その人を『好きかどうか』ではなく、『嫌いかどうか』という質問を、僕自身も非常に新鮮に感じました。この質問は、今まで幾度となくその場しのぎの解答で修羅場をくぐり抜けてきたいーちゃんが、全く返答することの出来なかった質問です。自分が玖渚のことをどう思っているか、いーちゃんは分からないのです。
人は、他人と付き合っているとき、相手の全てを知り尽くして、意識的に付き合っているのではありません。では、何をもってしてその人が『どんな人間か』を決定しているのでしょうか。正解は非常にシンプルで、『自分がその人と付き合った歴史』から判断しているのです。だから、相手が初対面の人間ならば、歴史がないわけですから、第一印象に頼らざるを得ないわけです。そして付き合ううち徐々にその人の内面が見えてきて、自分の中でその人のキャラクターが固まっていくわけですが、もしここで、見えてきた相手の本性がとんでもないものであったならば、相手のことをどう思うでしょうか。おそらく、『幻滅する』という人がほとんどでしょう。しかし、中にはまだ自分の知らない相手の領域をもっと知ってから、最終的にその人を判断しようという人もいるかもしれません。
それがいーちゃんのスタンスです。いーちゃんは、玖渚が兎吊木らと共に行動していた時代を知りません。いーちゃんは、玖渚が時折見せる『子供ではない』表情に、不安、あるいは恐怖を抱きます。しかし、彼は玖渚と付き合うことを止めたりはしません、なぜなら彼にとって人間の価値は最終決定するものであるからです。彼は今までずっと、玖渚の『天才』としての存在に圧倒的な劣等感を感じ続けてきましたが、それは玖渚を構成する物のほんの一部でしかない、と自分に言い聞かせることで、『平凡』な自分を玖渚の横にいても良い存在として『正当化』し、『子供のような』玖渚のみを見つめてきました。そんな無意識レベルでの玖渚からの『逃避』を、兎吊木は前述の質問によって、いーちゃんにはっきり意識できるレベルまで引き上げたのです。人間は、人に自分のことを評価されれば、『自分とはそういうものなのかな』と思ってしまいがちです。他人を自分を映す鏡のように思ってしまいがちなのです。曖昧にしておけば、何の問題も発生しないことを、はっきりと見つめさせられるということは、大変苦しいことです。(真実から)逃げていた自分を一度否定しなければならないのですから。
かつて世界を蹂躙した天才、兎吊木によって軽々と内面を見透かされたいーちゃんは、『明日また話そう』と言う兎吊木に対し、ミスからの汚さを全て晒す覚悟を決めます。しかし、翌日になって、研究所の第七棟から発見されたのは、無惨に『解体』された『細菌』、兎吊木の姿でした・・・・。

To be continued...

「何も起こらないことこそが、悲劇なのだ。矛盾論理、第二回。」(2006.8.5)

さて、遅れましたが、前々回の続きです。

兎吊木の言葉に沈むいーちゃんに、いーちゃんらの保護者、鈴無さんは声をかけます。『一体あんたは何がしたいのか』と。一巻からずっと失敗を重ねてきたいーちゃん。いーちゃんの周りでは次々に人が死んでいく。しかし、それは果たして避けられない運命であったのか?いーちゃんがわざと誤った選択肢を選んでいたからではなかったのか?と鈴無さんはいーちゃんに問います。それに対し、いーちゃんは自ら『子供が拗ねているように』と表現して反論します。いーちゃんが、人の指摘に対して屁理屈などを並べ立てて、それを否定しようとするのはいつもの事ですが、今回のように人の言葉によってダメージを受けている描写は今までありませんでした。
人は良い意味でも悪い意味でも他人との交際によって成長、変化していきます。変化しないとすれば、それは本人が無理をしているという事に他なりません。自分で自分のことを嫌い、それを『人間不信』という言葉に一般化し、自分の『時』を止め続けてきたいーちゃん。全ての反応を、表面上の刹那的なものとして行い、全ての動作に『嘘』『偽』が伴ってきた彼が、兎吊木との対話によって『心をえぐら』れ、傷つき、少しずつではありますが内面を表現していくようになる様子は、『今更の始まり』という表現に全て凝縮されているように思えます。
自分を壊れた、理解されないのが当然の、疎外されるべき存在に仕立て上げることにより、自分を、薄っぺらな自分を他人の攻撃からあらかじめ守ってきたいーちゃんの、長年止めてきた『時』=自主性が再び研究所内という『閉じた』空間内で動き出そうとしたまさにその時、兎吊木は何者かに殺されてしまいます。
自分を少しでも動かした人間が突如消えてしまう、少しでも心を開いた人間が消えてしまうということは、どんなにか虚しいことでしょう。いーちゃんは、せっかく開きかけた心を再び閉じてしまおうとします。しかし、彼には落胆したり、意固地になる隙さえありませんでした。一方で兎吊木の死は、玖渚にもスイッチを入れたからです。かつて『死線の蒼』と呼ばれ、恐れられていた時代に凍てついた彼女の時間もまた、動き出したのです。過去の一片の消失と、新しい影響の一片の崩落の両方を兼ねた兎吊木の死は、ほぼ同時に、いーちゃんと玖渚の止まった時を動かしました。これは、いーちゃんが自分の知らない玖渚を受け入れる体勢が整ったことでもあると思います。最後まで、『自分』ではなく、『他人』と付き合ってみよう、いや、付き合うしかないのだという、いーちゃんの明確な覚悟が、ラスト付近に暗示されたように思えました。
上巻だけから考えるに、今作のテーマは、『人と人との関わり』だと思います。兎吊木というたった一人の天才によって、周囲の世界が改変されていく描写は、人間の個体のもろさ、弱さを改めて感じさせてくれました。人間は群れなければ生きていけない。それは、天才・唯一・絶対である兎吊木、玖渚、卿壱郎博士も同じです。いくら天才といえども、『人間』の枠を抜け出ることは決して出来ないのですから。

以上で、サイコロジカル(上)の感想を締めくくりたいと思います。下巻を読んだら、完全体の『サイコロジカル』について感想を書きたいと思います。それでは。

「『あなたは、常軌を逸しています』/サイコロジカル第三回」(2006.9.30)

試験前に読んだ本の感想(ネタバレ)をぼちぼち公開していこうと思います。初回は、『サイコロジカル(下)』です。
上巻は、兎吊木が解体されて磔になっていたところで終わりました。下巻は、まず卿壱郎博士の激昂から始まります。自分の能力の限界を悟り、ようやく手に入れた代替要員の兎吊木の死は、博士の希望をほとんど削ぎ落としてしまいました。彼は、お気に入りのおもちゃを取り上げられた子供のように、喚き怒り狂いました。兎吊木の死は、博士だけにとどまらず、研究員全員、そしていーちゃんにも大きな衝撃を与えました。誰でも、昨日まで元気にしていた人が突然翌日に死んでしまうと、状況を飲み込むのに時間がかかるという話はよく耳にしますが、この状況をそう言わずしてどの状況のことをそう言うのでしょう。
いーちゃんは、昨日兎吊木から受けた『言いくるめられてしまった』屈辱を、今日の論戦で晴らそうとしていました。しかし、兎吊木は死んでしまいました。いーちゃんは、彼に一矢も報いないうちに、そのチャンスを失ってしまいました。彼もまた、卿壱郎博士と同じように、兎吊木自身が死ぬことによって一種の『希望』じみたものを失ったような気になってしまったのです。
兎吊木の死。そう、このことに全てが凝縮されているのです。兎吊木が死んでいた建物は、コンピューター管理の、入退室に声紋等認証が必要な頑丈なセキュリティシステムが施されています。しかしながら、そのログに何者かが侵入した形跡はありませんでした。つまり、兎吊木が死んだとき、この建物は全くの『密室状態』であったということです。つまり、兎吊木は『自殺』した、ということになってしまったのです。
戯言シリーズにはつきものの『密室』。今作で三回目です。西尾先生もだいぶ手慣れてきており、巻数が増えるにつれてトリックの難易度が幾何級数的に上がっています。今回のトリックは今までになく秀逸でした。詳しいことは次回で書きたいと思います。
話を戻します。しかし、兎吊木が自殺したと断定すると話が進まないので、卿壱郎博士は『他殺』であると仮定して、犯人を特定しようとします。研究員たちはみな研究棟にいたというアリバイが存在するため、否応なしに容疑者はアリバイがない『いーちゃんたち』に絞られます。そして、いーちゃんたちは高確率容疑者として地下牢に閉じこめられてしまいました!博士たちにより処分が話し合われる中、地下牢へ一人の女性が突如現れたのです・・・。
(つづく)

「『・・・それじゃあ傑作といきましょうか』/サイコロジカル・第四回」(2006.10.8)

いーちゃんたちが囚われる地下牢に姿を現した一人の女性、その名は石丸小唄(いしまる・こうた)。いーちゃんと小唄は、初対面ではありません。昨晩いーちゃんは散歩していた最中に彼女に遭遇しました。『零崎愛識』の偽名を用いて研究所内に侵入したイレギュラー存在の彼女は、牢をいとも簡単に開けると、『ディアフレンド』いーちゃんに、共に兎吊木の死の真相を探らないか、と持ちかけます。
いーちゃんは特に拒否する理由もないため、その話に乗り、小唄と共に研究棟の屋上へと上ります。彼らは点在する研究棟の屋上をジャンプして移動し、各研究棟内へ侵入します。いーちゃんと小唄は各研究棟内で様々な発見をし、兎吊木の死の真相を推理していきます。推理すればするほど、兎吊木が他殺だとすると、厳重セキュリティの玄関を突破した形跡がないので、侵入は『屋上から』という想像に帰着してしまいます。しかし、研究棟から兎吊木の死んでいた建物までは5メートルもの距離があったのです!いーちゃんは、その距離を根性で無事に飛びます。そこで彼は二つの重要な事実に気が付きます。一つ目は、研究棟から兎吊木棟への屋上からの侵入は可能だということ。二つ目は、研究棟よりも兎吊木棟は背が低いということでした。つまり、兎吊木棟から研究棟へ同じように跳躍して帰ろうとすると、少なくとも7メートルは飛ばなければならない、ということです。さらに、兎吊木が殺害された晩は、激しく雨が降っていました。そんな状況で、7メートルも跳躍できる人などいるわけがありません。よって、屋上から侵入は出来ても、玄関のセキュリティを通らずに脱出することは出来ない、という結論にあたり、いーちゃんは兎吊木を他殺だと証明できなくなってしまいました。
しかし、彼は諦めませんでした。兎吊木の死体を再びよく観察したのです。すると、兎吊木の両腕が切断されているということに気が付きました。研究員の特徴を思い出し、その意味を熟考すると、驚くべき証明のブリッジ部が見つかったのです!その後、小唄の声紋コピー能力により、研究員のふりをして兎吊木棟から脱出した彼らは、いーちゃんが地下牢から消失したことがバレたことを知ります。そして、いーちゃんは小唄との同盟を破棄して、玖渚たちのいる牢へ戻ろうとします。小唄に『常軌を逸している』と言われ、よく言われる、と開き直ったいーちゃんは、小唄からナイフを受け取ると、地下牢へ向かうのでした・・・。
なぜ彼はここに来て小唄を裏切ったのか。彼は決してひねくれているわけではありません。彼は、常に自分は相手に迷惑をかけていると考えているのです。人生持ちつ持たれつといいますが、彼は一方的に自分が持たれるばかりと考え、相手は本当は嫌がっているのではないかという恐れを拭えません。相手が無理をして自分に合わせてくれているとしたら申し訳なくて仕方ない。これは単純にいーちゃんの『対人恐怖症』とでも呼ぶべき思いこみです。自分を友達と呼んでくれる人がいることは嬉しくて、楽しくて、幸せで。でも裏切られるのが怖い。裏切られるくらいなら初めから深い関係を持たなければいい。そういったネガティブな人生観がいーちゃんの心を覆っているのです。彼が如何にしてこのような考えを持つに至ったかは、まだ語られていませんが、昔に心から信頼していた友人を失った『悪夢』から、彼はまだ覚めていないということが予想されます。自らを『欠陥製品』と故障する彼は、実は自分を欠陥があるとは本当には思っていないのです。そう思えば、裏切りを正当化できるから。自分が異常だと誰もに思わせれば、避けられても怖くないから。いーちゃんは、徹底して相手を気遣っています。異常なぼくが、君の嫌な面をすべて肩代わりしよう、と。そんな風にしてずっと生きてきた彼は、毎日が疲労・苦痛の連続だったことでしょう。彼は、牢へ向かう前、こうつぶやきます。

『生きてることはつらかったです。』

人から逃げても逃げても、自分の弱さが露見するだけで、一歩も前へ進めず、結局自分を他者に晒すことの恐怖からは逃げられない。その苦痛を『戯言』という偽自虐で外側へ向け、必死に他人との偽接触を図るいーちゃん。『偽』接触と書きましたが、これはすなわち、自分の愚痴を外側へ向けて発信するだけで、外側からの受信はしないということを表そうとしたものです。いーちゃんが他者と話しているとき、その行為は会話などでは決してなく、ただの『講義』なのです。これが、彼が編み出した苦痛を覚えない他者との接し方。伝達ベクトルを他者のみに向けることで、自分の殻にこもるという避けるべき『引きこもり』から仮想脱却しているのです。ここからも、彼が『引きこもる自分』をよしとしていない姿勢がうかがえます。そんな彼に唯一気を許す玖渚友が、典型的な引きこもりという設定も、非常に計算されています。玖渚はいーちゃん無しでは外出できない。しかしいーちゃんも外出できる引きこもりに変わりはない・・・。人間は、自分より低いレベルの人間を見ることで、安心し、生きる活力を得る汚い存在です。いーちゃんは、真の引きこもりである玖渚に優越感を抱き、まだ自分は大丈夫だ、と勇気をもらっています。しかし、玖渚は自他共に認める天才記憶の持ち主です。いーちゃんは、玖渚の『天才』というアイデンティティを意図的に排除することで平静を保ち、勇気をもらっているに過ぎないのです。だからこそ、彼は兎吊木の『きみは玖渚友のことが本当は嫌いなんじゃないのかな?』という質問に答えられなかったのでしょう。自分が玖渚に抱いているダークな優越、自分に対し玖渚が抱く真の信頼。この正反対の感情を、果たして等価と呼べるでしょうか。いーちゃんは、兎吊木によって、自らの『逃げ』を初めて明確に他者から指摘され、それをマトモに感受したと言えるでしょう。
長くなりましたが、次回、『サイコロジカル』ネタバレ感想、最終回です。ご精読ありがとうございました。

「たったひとつの冴えないやり方:サイコロジカルD」(2006.10.9)

小唄との同盟を破棄して地下牢に戻ったいーちゃんは、牢前で研究員、『何となくの彼女』春日井春日(かすがい・かすが)に出くわし、彼女の犬と壮絶な死闘を繰り広げ、力尽きます。そして、牢前に他の研究員たちが集結し・・・。
物語は、突然研究員集結の場面を端折っていーちゃんによる解決編へと移行します。おそらく、いーちゃんは、犯人が誰か、明確な推理を付けて言うことを条件に、猶予期間を卿壱郎博士から与えられたのでしょう。いーちゃんは、兎吊木の第七棟の屋上に皆を集結させ、自ら第七棟へ跳躍して行くことにより、屋上からの侵入の可能性を示します。その上で、跳躍が不可能そうな女性研究員、老体の卿壱郎博士、玖渚などを容疑者から排除します。その後も、様々な理由を付けて『消去法』による容疑者の絞り込みを行ういーちゃん。そして、最後に残ったのは、

神足雛善(こうたり・ひなよし)

研究員でした。証拠は何か、と言う神足。
いーちゃんは、長髪だった神足が突如スキンヘッドになったことに注目しました。その事実と、兎吊木の両腕が切り取られていたことを結びつけたのです。緊張性死後硬直という言葉があります。人間は、強いショックを与えられて死ぬと、死後肉体が硬直してしまうということです。兎吊木は、文字通り惨殺されており、緊張性死後硬直に当てはまっていました。つまり、神足は、自らの髪をロープにして硬直した兎吊木の腕にくくりつけ、硬直した兎吊木の腕をフック代わりにして屋上間7メートルの距離をと跳躍。玄関のセキュリティを突破することなく脱出に成功したと、いーちゃんは推理します。
この推理を、神足は受け入れ、『人を殺すことに理由は要らない』と捨て台詞を残して逃走してしまいました。その後に残ったのは、廃人となった卿壱郎博士の姿でした・・・。
トリックとしてはいささかお粗末な気がしないでもないですが、劇中の伏線を最後にまとめて一つの殺人課程を描き出す手法はやはりお見事の一言に過ぎます。今作『サイコロジカル』は前三作に比べエンターテインメント色が強く、研究員らといーちゃん+小唄の駆け引きがバックボーンとなっており、手に汗握る緊張感を最後まで味わうことが出来ます。しかしながら、心理描写がないわけではありません。いままで描かれることのなかったいーちゃんの内面の葛藤を、兎吊木という天才の介入によって引き出し、いーちゃんの人間としての成長の可能性を我々に見せてくれました。
最終章の『たったひとつの冴えないやりかた』というタイトルは、いーちゃんの今後の自分をまっすぐに見つめていく上での覚悟を暗示しているように思えます。物語の最後で、いーちゃんは兎吊木の質問に対し自分なりの明確なごまかし無しの答えを出します。

『分からねえよ』

と。ごまかしじゃないか、と思われる方がおられても、それはそれでいっこうに構いません。しかし、これは愚痴ではなく、明確なあの世の兎吊木本人に対するいーちゃんの『解答』なのだと、私は思います。決して、独り言などではありません。自分の殻を最後にて破り、兎吊木を堂々と睨み返したいーちゃん。彼は、希代の天才に、新たな人生観を植え付けられたと行って過言でないでしょう。これから彼が戯言を吐き続けるとしても、兎吊木の影響は、彼の精神の根底に深く残っているに違いないのですから。
毎回必ず重要人物が死ぬ『戯言シリーズ』。玖渚の『チーム』の一員が死を遂げたことが、今後どのように玖渚といーちゃんの関係に関わってくるか期待しつつ、残り四巻の佳境を、楽しもうと思います。

inserted by FC2 system