「ミステリー・ミステリー」(2006.10.29)

桜庭一樹『GOSICK』読了。

日本からヨーロッパの小国、ソヴュールに留学した少年、九城一弥。彼は東洋人で髪が黒いことから、学園で『死神』と呼ばれています。そんな彼が、図書館に幽閉される謎の美少女、ヴィクトリカと出会い、この物語は始まります。ヴィクトリカは、図書室中の本を読みあさって、退屈を紛らそうとしています。彼女は頭の中の『知識の泉』を使って、事件をたちどころに解決、いや、『言語化』してしまうのでありました・・・。
出版社が富士見ミステリー文庫という事からも分かるように、この物話はミステリーです。しかしながら、自分の中のミステリーの既成概念を打ち破ってくれる物があると思います。まず、情景・心理描写がひたすら細かい点。事件の大きな流れを読者に理解させるのではなく、その場面場面で主人公たちに与えられているのとほぼ同じ情報量だけが読者には与えられます。しかも本作は事件に主人公たちが巻き込まれる形で描かれているので、推理はほぼ不可能。推理できる条件がそろったときにはすでにヴィクトリカが解決済み、時すでに遅し!主人公たちと共に事件に翻弄されるのを楽しむ小説でも言えましょうか。・・・と、ここまで書けば、本作がミステリーとしての要素をあまり持ち合わせていないことに気付くでしょうが、私はあくまでも本作はミステリーであると思います。一弥とヴィクトリカの関係は、『事件』の中で深まっているからです。悪い状況に男女が置かれると、恋が芽生えるというのは有名な話ですが、この二人の関係も少し似ているように思えます。事件がなければ、一弥とヴィクトリカを連結するパーツは存在しないので、二人の関係は進展しません。この点が、通常のラブコメや恋愛小説と根本的に異なっているところです。
事件の顛末も、実際にあった第一次世界大戦と見事にシンクロしており、一瞬ソヴィールが架空の国であることを忘れてしまいました。事件で生き残る人間の国籍が、第一次世界大戦の勝ち組、連合国側なのです!歴史の復習にもぴったりかもしれません(笑
『このライトノベルがすごい!2006』では『これはヴィクトリカに萌える小説です!』と評価されていましたが、私はそれを抜きにした方が楽しめると思います。展開に煙に巻かれた後で初めて、ヴィクトリカの愛らしさは際だってくるのだと。本格的なミステリーが読みたい方は少々物足りないかもしれませんが、そこを敢えて最後まで読まなければ真相がつかめない、作者の意図に飲み込まれてみるのも一興かと思います。
最後に。『GOSICK』は文章表現が細かい=緻密=美しい、というのが特徴です。流れるように連鎖する展開と高度な表現を味わえますよ。近代ヨーロッパという舞台に憧れる人も満足できると思います。
それではまた。

P.S.ところで、ローゼンメイデンを読んでから『GOSICK』を読むと、ヴィクトリカが真紅に、一弥がジュンに見えてくるのは気のせいでしょうか・・・。

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