「蠅の王」(2006.6.24)

本日のメインディッシュは、ゴールディングの『蠅の王』です。もともとは、『蠅の王』(ベルゼバブ)というタイトルに惹かれて買ったのですが、本腰を入れて読んでみて意外や意外、衝撃的なストーリーでした。
世界大戦のさなか、疎開のため少年たちを乗せた飛行機が南太平洋の孤島に墜落します。大人たちは一人残らず死亡し、子供たちは、大人のいない世界で自分たちの『社会』を築こうとします。子供たちは、自分たちのコミュニティーのリーダーを選挙で選出し、静かな生活を送ります。しかし、叛乱意志が表れ、彼らとリーダーとの激しい対立を経て、子供たちは全面戦争へと突入していくのでした・・・。
『何だコレはッ!』これが読んだ直後の最も素直な感想でした。作者、ゴールディングの気持ち悪いほど繊細で透明な文体に終始魅了されっぱなしでした。特に、この作品の心理描写は異常にグロテスクで、全身がゾクゾクしました。全体を貫く雰囲気としては、西尾維新の先の読めない感じ、芥川龍之介の病的な鋭敏感覚に通じるものがあると思います。
口喧嘩が発端となり、群集心理に支配され、狂気の中で殺戮を繰り返していく彼らの姿は、『獣』から心の痛みをすべて奪い去ったような『殺人マシン』そのものでした。当初は内からやってくる漠然とした恐怖から逃れるため、外界を改変することによる精神安定の手段として『殺し』をやっていた反乱軍の少年たちは、そのうち、人が人を殺すこと自体に目的を見いだし、自分の生という本能に支配された『怪物』になっていきます。さらに人間の『大食』の欲を司るベルゼバブの名をタイトルに用いることによって、ますます何か深いものを感じさせます。
この本の主題、それは『世界』の崩壊、社会の犬としての人間と本質的人間のギャップではないでしょうか。人間の本質の汚らわしさを完璧に描ききり、真の勇気、理性、節制とは何か、と僕らに問いかけてくる本作。純文学と呼ばれる作品で僕が今まで読んだものの中で、最も深い感銘を受けました。
そして、最終的に大部分の少年たちは生き残り、救助されるのですが、そのとき、汚れで心が満たされたこと、つまり、もう少年には戻れないと言うことを実感し泣き崩れるリーダーの姿は、青年期の心理にも通じるものがあります。
リーダーの涙は、『リーダー』としてのものなのか、『人間』としてのものなのか、『男』としてのものか詳細は分かりません。しかし、これだけはハッキリしています。『明確な意志』のなかった『リーダー』の責任は重い、ということだけは。現場の荒れは、監督の責任です。
リーダーの虚栄が溢れる後半の、怒濤の殺戮ラッシュは、自然界でも人間界でもない、『アナーキークローズドサークル』の存在を想起させてくれました。獣よりも醜い存在として描かれる少年たちを通して、人間は、優れた人間を、妬みや羨みなしに直視することなど不可能なのだ、ということを感じました。
相手を、肯定的に受け止めるには、社会という基盤が必要なのだと・・・。

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